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「未踏の南極ドームを探る」内陸雪原の13ヶ月

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上田豊著、定価1500円 A5版238頁 成山堂書店刊
「南極といえば、極寒の地、かわいいペンギン、幻想的なオーロラなど、当たり前に起こっていることは、紋切り型の報道で繰り返され、刷り込まれる。そこには、国費による観測事業の意義や、厳しい現場で努力している隊員たちの姿は現れない。」
という著者の指摘は、南極観測とは何か、についてあまりにも無知だったことは筆者にも当てはまる。

現時点で、南極越冬隊は53次を数えている。この本は、26次としているので、4半世紀以上前の越冬隊の記録である。しかし、南極観測隊の仕事について、内陸の越冬について隊員によって書かれたものとしては初めてという。
しかも、この書籍については、「はじめての南極らしい低温の中での越冬記録」(1次越冬隊北村泰一教授)という紹介もあり、その意味でも貴重な本なのだ。

まず、有名な昭和基地の環境とは、同基地は大陸から離れた比較的温和な島にあり、それに対して、越冬したみずほ基地は、内陸にあり、厳しい気候環境にある。両基地の夏と冬の平均気温の差は、昭和基地がそれぞれ-3℃と-20℃で、みずほ基地が-20℃、-40℃であるが、みずほ基地の最低気温は-60℃以上にも達するという。

このような極寒の地点で、がちがち凍結の氷の岩盤に地下2000mもの深さの孔を開け、氷の試料を採取する。しかもそこに1年3カ月も生活して、温暖な日本国内よりもハードな毎日を過ごすのだ。ブリザードの中での行動は、油断すると凍傷に罹り、常に命の危険とも隣合わせでもあるのだ。そのように移動しながら、また観測地点で氷の塊と格闘する過酷な重労働の作業である。

たとえば越冬隊の観測のうち、検層とは、「深さ700mの孔を使って、穴の変形の仕方や温度などが、深さによってどのように変化するのを調べる」ことである。
詳しくいえば「氷庄流動の力学を研究するための重要な手段である。掘削孔に沿ってその直系、傾斜、温度を測定し、孔壁を写真撮影する。それらから、氷の重さによる孔径の縮小、流動による傾き、流動速度を左右する氷の温度や層構造を知ることができる。また深さによる温度の違いは、過去の気温や積雪量を推定する手掛かりにもなる。」(84頁)
「氷床にどのように雪が積もり、氷になって流動し、環境の変化に関わっているかを明らかにすることにつながる。」という。地球環境の変化をとらえるため、基礎的で地味な体力と頭脳を使う仕事であるようだ。
このように、昨今大きな問題となっている地球温暖化問題の基礎的な調査でもある。

本書は、風呂やトイレの処理はどうするのか、という卑近な生活の疑問にも答えている。
ゴミ出しとトイレについては
「『みずほキャンデー』とは、炊事などの排水を凍らせた、アイスキャンデーならぬ、バケツのような氷塊のことである。キャンデーは1日に2,3個できるので、1週間ごとに搬出する。凍った大小便がはいった大きなビニール袋は、竪穴からは、つかえて出せない。抱きかかえたまま、雪の階段を登って搬出する。」(74頁)

また、みずほ基地にある風呂のことを「みずほ温泉」と呼ぶ。
「裸になって雪の通路を超え、床まで垂れた毛布をめくると雪洞風呂が現れる。浴槽には雪を溶かしたお湯がたまっている。造水槽と同じで、発電機のエンジンを冷やした循環水の熱でわかしているのだ。ステンレス製の浴槽は、1人がひざを折り曲げて入れる大きさで、雪壁に接している。...湯が熱いときは、雪のブロックを抱えてきて入れる。この湯加減が難しい。」(80頁)

特に強調しなければならないことは、その26次隊が南極大陸で2番目の頂点標高4000m超の「ドームふじ」を日本隊が極め、ルートを開いたことだ。ヒマラヤ登山家でもある上田隊長の発案から、日本の26次隊がヒマラヤの未踏峰を極めたと同じような探検的な成果でもある。これらはマスコミが報じていない事実なのだ。

ともあれ、このような貴重な情報をこの本で共有できたことに感謝したい。
南極について「ペンギン、タロジロ」以上の知識に興味のある方に、一読をお勧めしたい。

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